「安心・安全な場」のはずが…その研修、心理的安全性を脅かしていませんか?

「皆様、ここは安心・安全な場ですから、自由に発言してくださいね」
研修の冒頭で、講師からこう言われた経験はありませんか?
しかし、その言葉とは裏腹に、むしろ心理的な安全性が脅かされるような場面に遭遇した方も少なくないかもしれません。
例えば、勇気を出して「●●について、どう思いますか」という問いに自分の考えを発言したら、講師の意見と違ったために否定的な反応をされたり、突然指名されて答えに詰まり、大勢の前で恥ずかしい思いをしたり…。
こうした経験は、参加者を萎縮させ、「もう発言するのはやめよう」と思わせてしまいます。これこそが、研修の効果を著しく下げる「心理的安全性の欠如した状態」です。
この記事では、研修の成果を最大化する鍵となる「心理的安全性」とは何か、そして、それを高めるための具体的な手法について、参加者主体の研修設計の思想も交えながらご紹介します。
研修における「心理的安全性」を構成する4つの要素
まず、研修の場で心理的安全性が保たれているとは、どのような状態を指すのでしょうか。主に以下の4つの要素が満たされている状態と言えます。
- ● 話しやすさ:「的外れかも」と心配せず、素朴な疑問や意見を率直に言える。
- ● 助け合い: ワークで困った時、気兼ねなく講師や他の参加者に助けを求められる。
- ● 挑戦しやすさ: 失敗を恐れず、「とりあえずやってみよう」と新しいことに挑戦できる。
- ● 多様性の受容: 自分と違う意見や考え方を尊重し、チームの力として受け入れられる。
これらの要素が満たされて初めて、参加者は受け身の姿勢から「自分事」として学ぶ主体へと変わり、研修の学びが最大化されるのです。
心理的安全性を高める!「参加者主体」の研修デザイン
では、具体的にどうすれば心理的に安全な研修の場を作れるのでしょうか。
弊社が研修を設計する上で核としている、ボブ・パイクの「参加者主体の研修」では、心理的安全性を確保するための工夫が随所に盛り込まれています。ここでは4つの具体的な実践例をご紹介します。
1. 「質問ボード」で、質問へのハードルを下げる
研修中、疑問が浮かんでも「流れを止めてしまうかも」「初歩的な質問だと思われたら…」と、質問をためらってしまった経験はないでしょうか。
その対策として、弊社では質問をいつでも無記名で書いて貼れる「質問ボード」を設けています。これにより、誰の目も気にすることなく、どんな疑問でも安心して表明できます。これはまさに、心理的安全性の第一歩である「話しやすさ」を確保し質問しやすくする工夫です。
2. ペアやグループワークで、”助け合い”と”多様性の受容”を促す
いきなり大人数の前で発言するのは勇気がいるものです。そこで、研修ではペアや3〜4人のグループで話し合う時間を重視しています。
少人数であれば、「ここ、どう思う?」「ちょっと分からないから教えて」といった「助け合い」が自然に生まれます。また、自分とは違う視点に触れることで、「そういう考え方もあるのか」という「多様性の受容」も促進されます。こうした小さな成功体験が、参加者の主体性を引き出します。
3. ロールプレイは「スキル練習」の場であり「評価の場」にせず、”挑戦”を後押しする
ロールプレイは、学んだスキルを練習絶好の機会ですが、「うまくやらなきゃ」「評価される」というプレッシャーが、学びの妨げになることもあります。
私たちは、ロールプレイはあくまで「練習の機会」であり、パフォーマンスを評価する場ではないことを明確に伝えます。これにより、参加者は失敗を恐れることなく、安心して「挑戦」できます。安心して失敗できる環境こそが、最も効果的な学習環境なのです。
4. 「突然の指名」を避け、個人の尊厳を守る
冒頭の例のように、研修で講師から突然指名され、頭が真っ白になった経験がある方もいらっしゃるかもしれません。こうした体験は、参加者を萎縮させ、心理的安全性を大きく損ないます。
私たちの研修では、個人を突然指名することは原則としてありません。グループで話し合った内容を、グループの”代表者”から共有してもらうスタイルを取ることで、個人が矢面に立つ状況を避けます。グループ内で安心して発言できる環境をつくり、全員で考えたことを共有するため、個人の心理的負担を最小限に抑えながら、多様な意見を全体の学びにつなげることができます。
まとめ:学びを最大化する鍵は「場づくり」にあり
研修の効果は、伝える内容(コンテンツ)だけで決まるわけではありません。参加者が安心して学び、自由闊達に意見を交わし、失敗を恐れずに挑戦できる「心理的に安全な場」をいかにデザインするかが、その成否を大きく左右します。
今回ご紹介した手法は、そのための具体的なアプローチの一部です。皆様も自社の研修を見直す際に、「参加者の心理的安全性は確保されているか?」という視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。それが、研修の価値を飛躍的に高める第一歩となるはずです。
「参加者主体」の研修の理論と手法が体系的に学べる「トレーナー養成ワークショップ」
https://www.d-hc.com/service/trainer_development_program/workshop/
オンライン研修の場合「参加者主体のオンライン研修~講師養成講座~」
https://www.d-hc.com/service/trainer_development_program/interactive-virtual-trainer/
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